Foveon高感度設定による粒子表現
3.デジタル画像による粗粒子写真 ー A)粗粒子化の要件
フィルムによる写真では、
大きさや分布の異なる銀粒子をもとに、写真が構成されるのに対して、
撮像センサーを用いたデジタルカメラによるデジタル画像では、
画素単位で表現されるため、モザイク状の画像となってしまうが、
デジタル画像であるため、これは致し方ない。
また、撮像センサーの画素数が十分に多ければ、それほど目立たないと考える。
デジタル画像として、
粗粒子写真を生成するためのポイントは、
画像を構成する画素について、
数や大きさの分布にバラツキがあり(離散的で)、
特にグレー領域で粒子が目立つ
(均一なグレーで表現されない)
ことだと考える。
デジタル画像を拡大した場合に、
複数の画素に渡って、
画素値の滑らかな階調変化が認められた。
しかし、画素値が離散的に分布していれば、
銀粒子で形成されるフィルム写真のように
見えると考えられる。
拡大したデジタル画像___拡大したフィルム写真
(滑らかな階調変化)___(粒子が分布し、バラつく)
例えば、誤差拡散法を用いたディザリングのように、
確率に基づいて画素値が決定されれば、
画素値の変化が滑らかにならずに、離散的に分布すると期待できる。
さらに、画素値が、離散的でバラツキを大きくするためには、
撮像センサーで発生する、画素単位でのノイズを利用することも、
粗粒子状の画像が得られるものと、期待できる。
3.デジタル画像による粗粒子写真 ー B)撮像センサーの補完の影響
一般的な撮像センサーは、
入射光を電気信号に変換するフォトダイオードを、碁盤のマス目のように配置して構成される。
フォトダイオードは、光の強度に応じて電気信号を出力し、
本来は色選択性はない。
カラー画像を得るためには、フォトダイオードの入射側に、
RGB3色のカラーフィルターの、いずれか1色が設置されている。
個々のフォトダイオードは、RGBどれか1色の輝度値しか出力しないので、
各画素について、周囲のフォトダイオードの出力を基に補完することで、
画素値(RGB3色)を算出することで、全体として画像を形成する。
2020年初めの現在、市販されているデジタルカメラに搭載されている撮像センサーは、
ほぼ全てが、補完に基づいて画素値を算出しているが、
唯一、Foveonセンサーを用いているカメラでは、
補完を必要とせずに、画素値が決定できるようになっている。
Foveonセンサーは、
一般的な撮像センサーと異なり、
フォトダイオードが3層の積層構造となっており、
最上層はB、中間層はG、最下層はRの、
各色に対応した出力を行うので、
複数のフォトダイオードの出力に基づく
補完処理が不要となっている。
Foveon Inc. 国際公開特許WO02/2780Aより
なお、初期のセンサーは、FoveonX3と呼ばれ、
1つ1つのフォトダイオードで、BGRの3色を検出する構造であったが、
その後、4つのフォトダイオードで最上層のB層を共有する構造の、
FoveonQuattroセンサーに変更されている。
画素値を補完して算出する場合の、
モノクロ画像への影響を、
模式的にあらわしてみることにする。
カラーフィルターは、ベイヤ配列の配置とし、
補完については、
対象画素と、その周囲8画素との、
平均から算出してみた。(右図参照)
撮像センサに結像した被写体像が、グラデーションを有する杵型の画像(下左図)の場合に、
画素値の補間を行わない場合の、モノクロで3bit(8階調)で示した画像(下中図)は、
被写体像の階調の分布に近いものとなった。
一方で、RGBいずれかのカラーフィルターを通した単色の出力から、
RGB3色へと補完を行うセンサーの出力した画像を3bitでモノクロ化した場合(下右図)では、
周囲の値に引きずられた結果、被写体像と若干異なり、階調変化がなだらかとなった。
被写体像
補完しないセンサーの出力(3bit値)
補完が必要なセンサーの出力(3bit値)
補完が必要な一般的な撮像センサーを用いて、モノクロの画像を得ると、
周囲の値に基づいて画素値が算出され、画素値の変化が滑らかになってしまう。
さらに、モノクロの粗粒子写真を得るためには、「画素値が離散的でバラつく」要件を満たす必要があり、
一般的な補間を行う撮像センサーによる画像を用いることは、困難と思われる。
3.デジタル画像による粗粒子写真 ー C)ノイズによる粗粒子化
粗粒子写真に重要な画素値のバラツキを生成させるためには、
撮像センサーのノイズ発生を利用することが考えられる。
一般的な撮像センサーは、高感度(高ISO)に設定するとノイズが発生することが知られている。
フォトダイオードからの出力を大きく増幅させることが原因であり、
画素単位で、入射光に応じた画素値とは異なる画素値が生成される。
また、ノイズの発生は確率によるもので、
高感度(高ISO)ほどノイズ発生の頻度(ノイズ画素の生成)が多くなる。
補完を必要としないFoveonセンサーは、個々のフォトダイオードの構造が複雑なためなのか、
一般の撮像センサーよりもノイズが発生しやすい。
高感度(高ISO)に設定した場合の、ノイズの発生レベルを確認してみた。
補間を行う一般の撮像センサーと、補完が不要なFoveonセンサーとで、比較した。
一般のセンサーでは、ISO6400でもノイズがほとんど見られず、
最大のISO204800に設定すると、顕著なノイズが認められた。
注)ISO204800の画像は、現像ソフト上では正しいISO表示だが、画像ファイルのプロパティーではISO65536と表示される
一般センサー ISO100
Sony α9, FE24mmF1.4, SILKYPIX
一般センサー ISO6400
一般センサー ISO204800
Foveonセンサーでは、ISO1600程度まではノイズが見られなかったが、
最大のISO6400では、ノイズがはっきりと認められ、彩度も低下した。
Foveon ISO100
sdQuattroH, 24mmF1.4DG, PhotoPro
Foveon ISO1600
Foveon ISO6400
モノクロ化+拡大
一般センサー ISO100
一般センサー ISO6400
一般センサー ISO204800
Photoshop Elemantsでトリミング
Foveon ISO100
Foveon ISO1600
Foveon ISO6400
また、一般センサーのISO204800と、FoveonのISO6400について、
モノクロ画像をさらに拡大して比較すると、
一般の撮像センサーでは、画素間の階調変化がなだらかに感じられる一方で、
Foveonセンサーの場合は、個々の画素の単位で、ノイズが発生していることが確認できた。
一般センサーISO204800を、さらに拡大
Foveon ISO6400を、さらに拡大
Foveonセンサーを用い、高感度に設定することで、
フィルムによる粗粒子写真に似た、画素値が離散的でバラつく画像を得られる可能性が示された。
3.デジタル画像による粗粒子写真 ー D)Foveon高感度画像の調整
Foveonセンサーを高感度に設定して撮影すると、ノイズによって粗粒子写真に似た画像が得られた。
撮影画像をモノクロ化するだけでは、フィルムの粗粒子写真とはまだ相違しており、
フィルムの粗粒子写真に近づける改良が必要と考えられる。
特に、画素の階調をより離散的にすることで、
フィルムの粗粒子写真に近づけられると考えた。
フィルム写真とデジタル写真の両方で、コントラストを強調した、
高コントラスト写真にした場合、
高輝度や低輝度の被写体部分は、ほとんど白や黒の領域となる一方、
グレー部分では急激に階調が変化するため、
被写体のわずかな輝度変化が、
画像上では異なる階調になる。(右図参照)
画素値が離散的でバラつくような、粗粒子写真を得るためには、
高コントラストにすることが、効果的と考えられる。
なお、フィルム写真を高温現像で粗粒子化させる場合に、
コントラストも高くなる傾向がある。4)
4)写真工業、35巻、11号、16-17頁(1972年)
フィルムでの銀粒子の凝集・粒子粗大化による
高コントラスト化(下図参照)を考慮すると、
デジタル写真では逆に、高コントラスト化によって、
粒子の粗大化を強調できるものと推定できる。
Foveonセンサーを用い、高感度(高ISO)で撮影した画像について、
画像処理について細かいパラメータ設定が可能な、画像処理ソフトDxO FilmPack5を用いて、
コントラスト等の調整を行った結果を示す。 Sigma sdQuattroH, 24mmF1.4DG Art
Foveonで、ISO6400で撮影し、モノクロ化した画像は以下となる。
「コントラスト」のパラメータを増大させた場合、原画とは大きく変わらない。
「トーンカーブ」の傾きが大きくなるよう調整し、露出を増大させると、コントラストが大きく増大する。
さらに、「マイクロコントラスト」と「微細コントラスト」のパラメーターを増大させると、
粒状感が強調されて表現される。
Foveonセンサーを高感度に設定して撮影された画像について、
さらにDxO FilmPackで処理することによって、粒状感を強調できた。
次に、その粒状性のレベルを、画像処理ソフトによる粒状性付与のレベルと比較した。
A)FoveonでISO6400で撮影してモノクロ化し、
FilmPackでトーンカーブとコントラストのパラメータを調整した場合、
B)FoveonでISO100で撮影してモノクロ化し、
FilmPackの「Tri-X」プリセットを用い、粒状性を最大にした場合、
C)FoveonでISO100で撮影してモノクロ化し、
Sigma PhotoProの「フィルムグレイン」パラメータを最大にした場合とで、比較を行った。
A) のISO6400+高コントラストに対して、
B) のISO100+Tri-Xプリセットでは、粗い粒状性が得られるが、粒子が全体に均一となり、
C) のISO100+フィルムグレインは、粒状性が最も細かかった。
ISO100で撮影した画像を、粒状性付与の画像処理を行うより、
Foveonを高感度ISO6400に設定し撮影した画像を、高コントラスト化することが、
最も粗く良好な粒状性を得ることができた。
一般センサーISO100で撮影、モノクロ化した原画 Sony α9, FE24mmF1.4,SILKYPIX Developer
Foveon ISO6400で撮影、モノクロ化した原画 Sigma sdQuattroH, 24mmF1.4DG, Sigma PhotoPro
A)Foveon ISO6400で撮影、トーンカーブによる高コントラスト化と微細コントラスト増大
B)一般センサー ISO100で撮影、DxO FilmPack5で、Tri-X設定の粒状化
C)一般センサー ISO100で撮影、Sigma PhotoProで、粒状化の処理
ただし、Foveonを最大のISO6400に設定して撮影した画像では、
長辺方向の帯状パターンのノイズが生成し、
高コントラスト化するほど、帯状パターンのノイズが目立つ状態が見られた。
Foveon ISO6400 モノクロ化
さらに、トーンカーブで高コントラスト化+微細コントラスト増大